poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

Poetry May.2018~

さわらびの道

さわらびの道 森の小径を歩いていると突如風が一帯をざわつかせた何かが起こるという直感が針となり頭の奥に立つやって来たのはあらゆる音を吸いこんだ静寂 その真空を破ってヒヨドリヤマガラメジロシジュウカラカラス翼あるものはすべて飛び立ち 蠢く甲虫ら…

松森工場

田園の立体を潰して構築物は出現した蔵王連峰大東岳泉ヶ岳を不作法に切り抜き白いモノリスはとろりとろりとけむを吐く猛毒2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-パラ-ジオキシンが微量という名の下に空と合流するわたしは築後27年にやってきてその空の下を走る息…

One world 窓

One world 窓 どこからを外というのだろうこの目で見えるものすべてが外なのだろうか 目を閉じて見えてくるものとはいったいなんなんだろうあなたも外のひとつなのかキーボードを打つこのヒトサシユビも 閉じられた窓を見つめる人こそが多くのものを見ている…

竜巻

竜巻 たくさんの竜巻が 目の前で身を捩る 黒い天と黒い地を繋ぎ 紙に描かれた美しい竜巻 映像ではだめなのだ 録るということではだめなのだ 竜巻は描かれなくてはいけない スナップを利かせ 五指を振動し シナプスを発光させ 白紙のなかに竜巻を出現させる …

One world 部屋

One world 部屋 揺れない炎などないこの世界に動かぬものなどないように道端の小石は太陽を回り銀河とともに広がる途上にある オルガンの上に置かれた蠟燭部屋のなかでそのゆらめきは教えてくれる世界がふるえていることを人はおびえ言葉がうろたえているこ…

One world 顔

One world 顔 なんて大きな鼻なのだろう右と左に分かれて黒いりっぱな鷲が飛ぶ顔のうえを美という針の穴を破ってそこに人間の世界にたったひとつの表示がなされる顔こそ人の芸術ダリを思い浮かべれば本物の傑作とはなにかがわかる ドン・チードルは黒人だが…

すべては無題に尽きる

すべては無題に尽きる バスキアが刷き塗りたくる色は直感ですらないかもしれない。色がバスキアを塗りたくっている。色は対象を示すものではなくバスキアそのもの。バスキアという生命体をバスキアという社会的存在を色が真っ先に占拠していく。 バスキアが…

土 星ではない 地上ではない深部ではない 土郊外に家畜のように運ばれ土地という位置に盛られるガラスビニールコンクリアルミニウムストロンチウム陸海空に混じってる人類史地球からちょっとづつ肉体を離すスリッパを履きエレベーターに入り月へと昇っていく…

町街

町街 モルタルと木造の家々が くすんだ屋根を空に向け 窮屈そうにトヨペットが 曲がんなくちゃならない路地を 青っ洟の子どもらが 睫毛を翼に駆け抜ける いつか空を飛ぶんだろうな それともあの子たちはもう おじいちゃんになってしまったかな ちいさなジャ…

アナ

アナ わたしはさがす わたしの愛しいアナを でもわたしのアナに わたしはとても入れますまい なぜなら わたしそのものが アナだから 道を歩いて行くアナ イギリス人みたいに 不快な口笛を吹いて 街角を曲がりながら 世界征服なんかを想ってみる (別)世界がま…

構え

構え デタラメへの引き金に指を掛け彼はカラシニコフ一挺分の存在となるこの重さが彼の仮装だ指を引けば殺すことだってほくそ笑むことだってかなえられる発射というアクション当たればそれは魔法から覚めるように「撃たれた」という力学を生む撃たれたのは日…

Ifu

Ifu 在り得なかったものとの邂逅 その瞬間を守りたいのである 驚きはいつも過ぎていくものだから どこかの森に存在する 大木を目的化する どこかの誰かが 切り倒し、さらに切り、 削られ掘られ 大木は主語となり 受動態となる それは神木であったのか 物言わ…

青い水

青い水 何事もなくはじまった朝 きょうも訊いてくる 「生きる」というやつが わからないのかと 寝室から台所へ 下りる階段で ガサガサの踵が 立てる擬音 マアダダヨ スリッパも履かず わたしはちょっと考えるふりをした 太陽が 隣家の立体からあふれてくる …

器 肉体よりも眼がほしい 生きものでもなければ 物でもない かぎりある重さ たった一つの色 ふれることが叶わぬ 線と粒子 不感の熱 そのなかに 海はなく 星はない あの厚みは銀河ではない つまり 信仰よりも確かに 在るということ 割れるということ 長次郎 …

山手町

山手町 日暮れたこの丘の何処かにわたしの一室があるならばわたしにはやることがいっぱいあるだろう 窓を押しあけ夕焼け空の色を入れ耳をすますだろう夜がみちてくる気配に星の上がり始めの位置に 近くで白磁の皿がふれあう音が遠くから何語かわからぬ神秘的…

「あれら」

「あれら」 冬が始まりそうな夕べ 空の下へ飛び出す セーターがひつじ雲をチクチク刺す 郊外の森へ向かって 道はうっとりと蛇行していく 谷間の田んぼで うなだれた案山子が 命なき絶叫を発している 人に似させられながら 人はいちばん怖ろしいのだと 闇をま…

金曜

金曜 金曜の夕方の交差点の 解放の焦燥の殺気立った 足と髪のシルエットは 電気の破裂に彩られ 誰も彼も裏側からの出演で あらわれては消えてゆくのだが 耳と耳の穴と穴に 人さし指を入れてみれば 舞台はやや無音の大合奏となり 夕方と交差点付近から 夜は一…

限られた無限に ー中園孔二

限られた無限に ー中園孔二 在って欲しい光景が わたしたちの想う世界にはむろんなく 彼の大脳の外に延々とつづく その光景 光景を包む外縁は 無限に広がりつつある ヒトとは爆発である 星のかけらである しかし色と形によって わたしたちが得られるものは …

魔球

魔球 形容詞をデリートする動詞をすり替えるたとえば行くを笑うへわたしは不忍池へ笑ったほらステキな現代詩の一行が出来上がったぞ名詞を遠くから引っ張ってくる固有名詞にはゲスト出演してもらおうたとえば月面の地形の名称インギラミ峡谷なんてね 主語は…

ボタン

ボタン パジャマの上衣の2番目のボタンがないのだわたしは胸に弾丸を一発受けたように夜の数時間を面食らいながら過ごしている 秋だ秋なのではあるが次の日という場所であってさえ生きていかなくちゃならないのか じゃあ組んだ腕を外しておこうか わたしは夜…

旋律

旋律 橋は風景という移ろいに刷けられた形状と色彩でありもし「一台の楽器」という比喩を添えたならばとっておきの橋は視界の一隅を旋律という現象に置き換えることもできる

ビリっと風景を破く

ビリっと風景を破く それでも漆黒は現われずならばと言葉のなかへ踏み込み景色を形容せずに分解するのだがどこでもないところに抽象は浮かんだままなにものにもならない快楽に満ち以前の以前をリピートする 現場の音のなかに存在を置くも風景ではないものの…

小屋

小屋 わたしは小屋を飼いたいかわいい小屋を そしてその小屋をコヤと名づけ何処へでも連れて行こう 海辺森はずれゴールデン街そいそいと雨降る北上川の土手へ 小屋には入らないコヤは鳴かないいつもそばにいるなかには空間という思念があり仕切られてはいる…

曲がり方

曲がり方 7億の詩人が曲がる競っているのはその曲がり方にあるしかしどこまでも曲がっていくことはむつかしいあるところでは直線を否めず牧場で大の字になったり地下鉄で爆殺されなければならない 外はおそろしい世界で洞窟や地上、樹皮に形象を描けばヒトは…

スーパーボール

スーパーボール それは落とさなくてはならないものなのだがそれを手のなかで握ればなんでも出来る気がした空だって飛べないことはないのだがだれもまだ飛んではいなかった 木造校舎の2階から真昼のコンクリートめがけてらっか! 鼻から牛乳椅子引きスカート…

影への

影への エウロパは受けきれない木星が落とす影を 影と一体となって樹は立ち 影のツバメは黒から空中を去る 2018/05/17

電線

電線 空に傷をつけているのは電線ですが電線は黒いということであなたを癒しているかもしれません 20世紀以降電線は無意識のなかの風景でありゆえにコードはわたしたちを根本から縛ります 冷蔵庫では死が延長させられドライヤーの風は北極から氷山を引き離す…

一色海岸の部屋

一色海岸の部屋 波の音が今日の最果てまでやってこないかなあ 風がこのカラダを今すぐ骨だけにしてくれたらなあ 砂の上に何もかもが透明な部屋 さっきみたブルーノ・ムナーリの潔く矩形と成った「額もまた」がさっそく壁に掛けられる 部屋のゆかに腰を下ろし…