poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

魔球

  魔球

形容詞をデリートする
動詞をすり替える
たとえば行くを
笑うへ
わたしは不忍池へ笑った
ほらステキな現代詩の一行が
出来上がったぞ
名詞を遠くから引っ張ってくる
固有名詞にはゲスト出演してもらおう
たとえば
月面の地形の名称
インギラミ峡谷なんてね

主語は消さなくちゃ
それとも距離をかせぐのか
おもいっきり主体を打ってみよ
おれの球が
ギリリと
ずらした擬音を立てながら
場外へ飛んでいく
私物化されたセカイで
主体が7色に変化する
暗闇のむこうに虹が
倒れている
夜明けが朝をかじっている
チッチッチッチッチッ
小鳥がさえずる
だけどオノマトペは
小鳥に失礼じゃないのか!

病みあがりの天使のように
さあシニフィアンよ
意味からやさしく飛んでくれ
セカイは暗喩で出来ているんだから
直喩よもう少し黙ってはくれないか
でないと
毎日が直喩でぶれてしまうんだ

表層を謳歌し、讃え
主体殺しに躍起になった
自称詩人たち

心は禿げて
つるつると言葉はすべり
現代詩手帖の明朝体のシミとなる

いつでもアルチュールはやって来て
お前さんがたに
唾をかけてくれるだろう

大切な仕事があるだろ
生きるか、さもなければ
生きるか

ほらまた殺人だ
7時のニュースには
もうクタクタだ
礼拝堂は爆破され
ハイスクールは銃弾だらけ
夢の超特急が人を食い散らかしたんだってね
通路では馬乗りか、めった刺しか
またあの三人組が現れたんだな
これからもニッポンの
山林で死体が発見されることには違いない

ほかの惑星ではどうなんだ
いのちという恐ろしいものの末裔は

犯人は茫然としていたのか
またかまたかまたか

サイコいやだね いやだねサイコ
でもおれだって十分サイコ
ここでほら、自分の詩なんて
朗読してるんだから
サイコーのサイコでしょ!

やることなすこと
この人類ってやつは
・・・
でもいつか人類は人類を
脱いでいくんだろ
空気を
脱ぐように
ヒートテックを脱ぐように

手、いらない
足、いらない
腸、いらない

なにも食べたくはない
ソルビットもグルコースも
トレハロースも安息酸も
きなこぶたも
鯖の水煮も

ビットになる前にやり狂いてえ

この地上では
台風は正しく
嵐は美しい

この回は結構まっすぐ投げてるね
でも絶叫詩人になんてならないよ

詩は魔球になりたいんだ
遠いあなたの目の前に
フッとあらわれて
くるくると回ってみる
縫い目をしっかりと見せて
きみをから振りさせる
おもいっきりから振りさせる
わたしからの魔球なんだ