山手町
日暮れたこの丘の
何処かに
わたしの一室がある
ならば
わたしにはやることが
いっぱいあるだろう
窓を押しあけ
夕焼け空の色を入れ
耳をすますだろう
夜がみちてくる気配に
星の上がり始めの位置に
近くで白磁の皿がふれあう音が
遠くから何語かわからぬ
神秘的な親子の話し声が届くだろう
この丘は多国籍で
色のついた風が坂道を
曲って吹く
そんな風通しなのだ
密室では銀製オートバイが
机上で疾走する
「世界の果て」という幻想から
うつくしい爆音が響いてくる
もしかしたら
どこにも繋がらない小さい画面を
わたしは閉じる
わたしのもう一つの器官を
わたしから離す
わたしの背後でサルがせせら笑っている
わたしにはやることがいっぱいあるのだが
身を沈める椅子があれば
それでいいのだろうか
根岸の町々はスコッチ色に染まりながら
明かりを灯し始める
わたしは喉の渇きをうれしく思う
そして右手の指を
左手首にそっとのせ
脈をみる
ここでないようなどこかから
無音のリズムが運ばれてくる
この一室であれば
わたしにはやることが
いっぱいあるのだが
なおも日暮れ続けるこの丘で
すてきな沈黙と
まだ歩き足りない
歩行をわたしは愛する