poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

「あれら」

 

「あれら」

 

冬が始まりそうな夕べ

空の下へ飛び出す

セーターがひつじ雲をチクチク刺す

郊外の森へ向かって

道はうっとりと蛇行していく

 

谷間の田んぼで

うなだれた案山子が

命なき絶叫を発している

人に似させられながら

人はいちばん怖ろしいのだと

闇をまとって傾いて

人を怖がらせている

 

もしかしたら

ロープを巻かれるかもしれない

首をさする

冬が左手を握り返す

この世から出てはならないと

 

小枝をしならせたヒヨドリと

目が合った束の間

眠りの奥へと羽搏きが消えた

ヒヨドリの夢のなかにいるわたし

わたしのなかにいるのは

わたしのようなわたし

 

紫とオレンジの境へ

国籍不明の機体が溶け込んでいく

われらが西方浄土に

ジェラルミンを輝かせ

 

わたしの太古からの頭蓋は

パラボラアンテナを

宇宙の真上へと向ける

誕生を求めているのだ

終わりの次の瞬間を

捉えたいのだ

それにしても

「あれら」を見たわたしたちの記憶は

どこへしまわれてしまったのか

いずれにせよ

わたしたちも

「あれら」にしまわれてしまうのだが

 

冬が始まりそうな夕べ

空の下にはみ出したわたし

始まりに意図などあろうはずもなく