青い水
何事もなくはじまった朝
きょうも訊いてくる
「生きる」というやつが
わからないのかと
寝室から台所へ
下りる階段で
ガサガサの踵が
立てる擬音
マアダダヨ
スリッパも履かず
わたしはちょっと考えるふりをした
太陽が
隣家の立体からあふれてくる
急がなくちゃ
アシタだってやってくるぞ
ここが荒野の一軒家なら
地平線に糸杉が立ち
コヨーテの数頭が
小さな影を
じりじりと動かしていくのなら
わからないということが
夜明け前や
どしゃ降りのように新鮮だろう
生きることを忘れさせてくれる
人たち
の前では隠さなくてならない
わたしという真剣と愚問
腹の底から笑い合うということは
今後もないだろうが
きちんと挨拶をしておこう
グラスに入れた水が
青くなってきたので
窓辺に置く
ああきれいだ
きれいだ