poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

裏鬼ノ間

春冷えの国府多賀城夕の雨

春冷えの国府多賀城夕の雨

リパッティ音色遠のく穀雨なり

リパッティ音色遠のく穀雨なり

メモ用紙生きる用事に目を落とし

メモ用紙生きる用事に目を落とし

ウグイスの水晶響く朝盛り

ウグイスの水晶響く朝盛り

沈黙が久遠に置かれ秋保石

沈黙が久遠に置かれ秋保石

雨音がわが身一畳沁みわたり

雨音がわが身一畳沁みわたり

立ち去れば身を開きつつ花蕾

立ち去れば身を開きつつ花蕾

みつめれば頑なとなり花つぼみ

みつめれば頑なとなり花つぼみ

花つぼみ指腹離れて風薫る

花つぼみ指腹離れて風薫る

ノイズ消え澄みしノイズに春来る

ノイズ消え澄みしノイズに春来る

ホームレス厚着引き摺り春地下道

ホームレス厚着引き摺り春地下道

カンダタが懐刀抜き奈落閃く

カンダタが懐刀抜き奈落閃く

風去って宙は群青春北斗

風去って宙は群青春北斗

雪撃たれ屋根より落ちる死体なり

雪撃たれ屋根より落ちる死体なり

日だまりで文庫落とす冬午睡

日だまりで文庫落とす冬午睡

丹前冷えてスコッチ呷る畳部屋

丹前冷えスコッチ呷る畳部屋

愚者ゆえに閃めけば道をゆく

愚者ゆえに閃めけば道をゆく

傲岸なる己が前に白き紙置く

傲岸なる己が前に白き紙置く

世にはなき甘き水欲す丑の刻

世にはなき甘き水欲す丑の刻

尽きるまで思い出せばからっぽ

尽きるまで思い出せばからっぽ

フィッツジェラルドごろりと川渡温泉

フィッツジェラルドごろりと川渡温泉

冬黒く稜線果てに銀の嶺

冬黒く稜線果てに銀の嶺

からっぽとなるまで見つめ冬の月

からっぽとなるまで見つめ冬の月

だれの心にも在らず一人旅

だれの心にも在らず一人旅

白匂う瞳の奥の雪の原

白匂う瞳の奥の雪の原

白は鳴る森の果ての雪景色

白は鳴る森の果ての雪景色

くちびるにくちびる重ね雪の原

くちびるにくちびる重ね雪の原

ふりやまぬ雪鼻に乗せ熱き尿

ふりやまぬ雪鼻に乗せ熱き尿

十七より檸檬握りて彷徨いぬ

十七より檸檬握りて彷徨いぬ

こと切れた運命線を摩り小寒

こと切れた運命線を摩り小寒