poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

松森工場

                   

田園の立体を潰して
構築物は出現した
蔵王連峰大東岳泉ヶ岳を不作法に切り抜き
白いモノリスはとろりとろりとけむを吐く
猛毒2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-パラ-ジオキシンが
微量という名の下に空と合流する
わたしは築後27年にやってきてその空の下を走る
息を弾ませ
地元住民は敗者となる 
と息の呪文を洩らしながら
 
艶やかなコンクリートに覆われた構築物のなかで
絶え間なく市民らの罪が焼かれつづける 
大量消費を消費しきれなかった罪を
劫火は24時間365日制御され
人類滅亡まで火は消えない(失笑)
現代には処理という神がおわし
各種神殿が世界の隅々に建てられる

町内の一角にきょうもわたしたちは
秘密と穢れを運んでいく
半透明のなかの粉々になった記号数字
屠殺の残りもの 放出された体液
地球に溶け込もうとするプラスチック
 
ごみ収集車は終わることのない戦場へ向かう
こっそり敬礼している市民もいるかもしれないが
兵士は武器のかわりにゴム手袋をはめ聖人となり
神殿へと急ぐ
むろんだれも合掌はしない
 
なんど想像したことだろう
松森工場がなければと
魔法でも起き世界の邪悪なものを
一瞬で消し去ってはくれないかと
独裁者も虐殺も核も 一切合切
地球ごとでかまわないから
太陽に呑み込まれるまでとても待てやしない
かように不快は露出し
不安は日毎つのるが
社会は淡々と処理を行い続ける
ごみや死や政を

ヘンリー・ソローの小屋で暮らすことができたとしても
わたしの脳内に松森工場は構築される
高い煙突からはとろりとろりとけむが流れる
そのなかを
わたしは生きる
不愉快な風景を
忌避できない現実を
合体させわたしは生きる

Je suis l`usine Matsumori.

 

 

※平成17年、仙台市は地元住民らの猛烈な反対運動を押し切り、1日600トンの処理が可能な巨大なごみ焼却炉を建設する。その試運転の際に大事故を起こしダイオキシン漏れを発生させた。住民たちはすぐに運転差し止めを求める仮処分申請をおこなったが、行政の計画通り松森工場は稼働を始め現在に至る。