poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

column

暴露の完成       リヒター『ビルケナウ』考 

暴露の完成 リヒター『ビルケナウ』考 7月下旬、仙台駅を出て2時間、竹橋駅から地上へ出ると重い湿気にむっとした暑さ、さらに本降りの雨。久しぶりの東京は一面灰色の歓迎だ。お堀を越えた先には東京国立近代美術館があり、今回の上京の目的の一つ『ゲル…

少年の終わりから       タージオその後 

『ベニスに死す』は、わたしにとって映画ベスト3に入る作品だ。この映画のなにが魅力かといえばこれはもうタージョ役のビョルン・アンドレセンの美しさにある。その虜となったダーク・ボガード演ずるアッシェンバッハの錯乱状態と死にざま、これもこの映画…

未確認のドラマツルギー

2012年10月13日横浜市青葉区にある「こどもの国」上空で無数の白い光を目撃した。周囲では空の異変に気づいた人も少なくなかったが、数分もすると空を見上げるのをやめ遊具に興じるわが子へと視線を移していった。10数分間に亘って空の広域を流れ留まり動く…

詩歌の古巣

神保町の田村書店といえば日欧の近・現代文学を領域とする古書、古本の老舗だ。日本の詩集の稀覯本がびっしりと棚に詰め込まれ、その背表紙を眺めているだけでも楽しい。 学生時代はおどおどしながら店に入り、恐る恐る本を抜き出しその値段にも戦慄したもの…

2017-2020ヨコハマトリエンナーレ 亀裂を巡る断章

3年前の「2017ヨコハマトリエンナーレ」で一番印象に残った 作品は、アイスランド出身のトラグナル・キャルタンソンの映像作品『The Visitors』だった。7人の演奏家がそれぞれ一つの部屋に隔離されたかたちで一つの楽曲をヘッドフォン通じて合奏する。演奏…

加藤典洋 詩集『僕の1000と一つの夜』

昨年暮れ、加藤典洋さんと懇意にしておられたある作家の方から加藤さんの詩集を貸していただいた。タイトルは『僕の1000と一つの夜』。限定300部、170頁、43篇の作品が収められた第一詩集にして最後の詩集である。明日返却するのだが返すのが惜しまれる。こ…

ルドン浄土

夢の断片と浮遊、その深奥を堪能させてくれる駒井哲郎の紙の「中」の小宇宙。会場には、その駒井が最も影響を受けたオディロン・ルドンの作品が石版画を中心に展示されていた。展示順路の終盤、ルドンのパステル画「聖セバスティアヌス」「若き日の仏陀」「…

デュシャン礼賛

「THE ESSENTIAL DUCHAMP」を観て 断片的メモ 在るものは現代ではなく 現れてしまったのがアート デュシャンは現れては消え 現れる 現在においても 破壊(ダダ)以上にデュシャンの変化は ラジカルである 理知的なインスピレーション 完璧なコンセプト 緻密な…

谷川俊太郎「もういーかい」を読み

重いくびきから放たれる言葉の旋律 谷川俊太郎という詩人を詩人足らしめているのは、谷川さんという人間をつかんでいる幸福感にあるのではないだろうか。幸福ではなく幸福感だ。 しあわせな環境にいても幸福を感じられない人はざらにいる。はたから見て不幸…

谷川俊太郎「雪の朝」を読み

わたしという子どもたちは蘇る あなたのなかにいる子どもたちは元気ですか? 谷川さんのなかにいる子どもたちはいつも元気みたいです。子ども時代の心ときめかせた瞬間をありありと甦らせることのできる人はしあわせです。 年齢的にはもう老人と言っていい現…

石内都「肌理と写真」展  ー 記憶の澱、胸を衝く意念

石内都「肌理と写真」展 ー 記憶の澱、胸を衝く意念 ひと月程前、横浜美術館で開かれている石内都「肌理と写真」展へ行ってきた。何か記さねばと思いながら日は過ぎてしまった。ひと月経っても、いまだにあれらの写真が心の一隅を占めている。 荒い粒子のモ…

四元康祐『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』 全裸の武装による世界との格闘

四元康祐『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』 全裸の武装による世界との格闘 衝撃的な本だった。四元康祐が弾けてしまった。新しい詩集など手に取ることは滅多にないが、近年稀にみる快哉の詩集ではないだろうか。昨年5月に上梓され、買って読んだのが2ヶ…