poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

未確認のドラマツルギー

 

 2012年10月13日横浜市青葉区にある「こどもの国」上空で無数の白い光を目撃した。周囲では空の異変に気づいた人も少なくなかったが、数分もすると空を見上げるのをやめ遊具に興じるわが子へと視線を移していった。10数分間に亘って空の広域を流れ留まり動く光球を見続けた。UFOを見たのは初めてではないが、これだけの時間、多数の人たちと一緒に目撃したことはない。喜び勇み小学3年の娘を遊具から引き剥がし空を見上げさせた。光球の群は消えたり現れたりと奇異なスペクタクルを続けている。空を仰いだ娘は見る見る顔をこわばらせていった。そして、一言も発せず逃げるように遊具へと戻っていった。その日から娘は家中の窓を閉め切り、さらにロックを二重掛けするようになった。彼女の前でUFOという言葉は禁句となった。わたしにはずっと待ちわびていた劇的な遭遇だったが、娘にとっては恐怖体験以外の何ものでもなかったのだ。


 科学者にしてUFO研究者ジャック・ヴァレが著した『異星人情報局』という本がある。フィクションなのだが、実際に起こったUFOに関わる事件、米ソ等公的機関、民間組織の動きなどがちりばめられ、さながらUFO歴史ガイダンスの様相を帯びている。この作品では、真相の隠蔽を目的に偽のUFO事件や怪しげな宗教団体まで発生させる組織があるのでは、というヴァレの推測が反映されている。あの宇宙人と接触したといわれるMJ12を想起させる。ただヴァレ自身、UFOと遭遇しているが、UFO=異星人の乗りものという考えには否定的だ(彼はUFOを平行宇宙からの出現と考える)。


 1561年4月、ニュールンベルグの空に現れた「戦慄すべき光景」(図版掲載)などは歴史的事象として興をかき立てられるが、古今東西、UFO現象は極めて不可解だ。かつてユングはUFOを実体のない心的投影であると唱えたが、のちに物体としての存在を認め、自説を否定するに至ったといわれる。一方、最大のUFO目撃国家アメリカはその存在を否定し続けてきた。ところが昨年、米国防省は空軍パイロットが捉えたありえない速度と動きを見せた飛行体の映像を突如公表した(ジャーナリストに証拠を握られ否応なくというのが背景にある)。この映像を見た人は多いだろう。さらに今年の6月には米議会より予てより要請されていた144件のUFO事案の検証結果を発表したが、1件を除くすべての空中現象は説明できないものだった。万が一、米国政府がこの現象を宇宙からの来訪者の乗りものの可能性もあるとしたならば……。世界は驚愕から混乱、やがて恐慌へと向かうのではないだろうか。


 三島由紀夫の隠れた傑作『美しい星』に人類を水爆で滅亡させようとする宇宙人が登場するが、人類を生態系の頂点から転落させる高次元の存在そのもので、これまで営々と築き上げてきた文明・文化は瓦解していくだろう。
 ロズウェルもグレイも虚構であり、UFOは不可解かつ複雑な現象として末永く未確認なドラマの一コマであって欲しいものだ。仮にはるばる地球へと異星人がやってきたとしてもハリウッドが描く下等極まる人類的暴力は用いないと思うのだが。

 

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