poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

ルドン浄土

夢の断片と浮遊、その深奥を堪能させてくれる駒井哲郎の紙の「中」の小宇宙。会場には、その駒井が最も影響を受けたオディロン・ルドンの作品が石版画を中心に展示されていた。展示順路の終盤、ルドンのパステル画「聖セバスティアヌス」「若き日の仏陀」「二人の踊女」が一角を占めていた。そこだけ明らかに空気感が違う。その一角を去っては戻り、去っては戻り、何度も立ち尽くす。深い色彩に依る神秘的な明度と可視化された透明感。紙上の宇宙でもなければ、紙の中の小宇宙でもない。ルドンのパステル画は、無限の空間の一部に枠をつけて、この世界からの「別空間」眺望を可能にした映像装置である。何故かは分からないが、安堵と幸福感に包まれ、浄土とは此処なのかと腹の底で息を吐き出すのだった。

 

「駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙」(横浜美術館)へ行く