poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

放課後の終わりに

 放課後の終わりに        

 


三階建て鉄筋コンクリートの校舎
とある小学校の一階東北角の一室
ぼくの昼はそこで生きている
放課後児童指導員
それがいまのぼくの仕事

月曜から金曜まで
放課後が始まり 放課後が終わるまで
喧噪という旅のなかで ぼくは
宝物をさがしている

こどもという地図に目印はなにもないが
こどもにはひとり残らず
宝物が隠されている 
ひとつとして同じではない宝物を 

秋が冬に潜り込む瞬間を感じて
タイムカードをがきんと鳴らす
この日の部屋の明かりを消す

昼間あんなに騒がしかった部屋
二本足の羊たちがシルバニアを喰み
LEGOをぬり絵を写し紙をブロックを喰み
天使と猿の合いの子がハナクソをほじくり
歯ぐきをみせ 抜けた歯を自慢する
相模訛りの男の子の口げんか
オモチャはこすれぶつかり
つま先が汚れた靴下がジャンプし
水玉色のパンツが床を走った昼

いまはだあれもいない

いつも思う
明かりを消すときに
今日ここであったことは
本当にあったことなのだろうかと
ぼくはいつも疑問に思いながら
不思議に感じながら
蛍光灯の六つのスイッチを押していく
六つのみじかい悲鳴をききながら

灰色の闇となった箱の片隅に
せめてユウレイの一体でもあらわれ
「まあ あったといってもいいんじゃないか」
そう呟いてほしいものだ

だれもいない真っ暗なトイレで
蛇口をめいっぱい回されるよりも
冷たい手を肩に置かれて
そう呟いてほしい

鍵束をガチャガチャいわせて
部屋に施錠する
プール側のガラス戸をロックし
北側の非常出口を見回る

ピクトさんが緑色の闇から
白いヒカリへと駈ける
向こう側に
どんな世界が広がっているんだろう

ところで
カゴに入っているボールの山から
一番使われ汚れすり切れたドッジボールが一個
宙に浮いているではないか 
まあ 明日の昼までに
カゴのなかに下りくれればそれでいい

 

 

 

     詩集『シャドーボクシング』より