裏鬼ノ間
ふりやまぬ雪鼻に乗せ熱き尿
十七より檸檬握りて彷徨いぬ
こと切れた運命線を摩り小寒
右腿の黒子踊りぬ情死考
烈火の如く生きるに在らず67
死するまで悩める光り胸にあり
唇は唇恋し冬木立
宵の口血はまっすぐカシオペア
脇の穴深き女が立つ荒野
この世から放つ翼か文字を打つ
鶏の足老たる母の口塞ぎ
地球を去れと東方の星は堕つ
永遠に不在の妻割るマグカップ
更けゆく夜レミゼラブルに蜜柑汁
石油炊き炬燵這入れば風木立
豊沢の水に跨い冬銀河
川音と杯の重さと常夜灯
豊沢のせせらぎのほか何もいらず
カメムシに入りて眺むこの世なり
熊鈴が沢に吸われて単独行
舞う枯葉人を脱ぎゆく迷い森
黒タイツ蟻の王女ら床に立つ
回してみる引いてみる生きていく
在らぬ弟が肩に手を置く秋日和
貨物列車放つビームを囲む闇
北向窓辺にラジオあり熱情流れ
頭痛去り太古の草原懐かしむ
ひとに響かぬ結晶の律透ます
逃げる舌舌は追いかけ芒原
右耳すまし左耳すまし枯山水