poetoh

大島憲治の詩とエッセイ、フォト、自由律俳句を紹介。既刊詩集『イグナチオ教会通り風に吹かれる花のワルツ』(書肆山田) 『東京霊感紀行』(竜鱗堂) 『センチメンタルパニック』(私家版) 『荒野の夢』(蝶夢舎)『シャドーボクシング』(蝶夢舎)

FCLP

 FCLP

 


低くたれこめた雲のなかを
爆音が轟く
ここは
厚木 横田 横須賀を結ぶ
米軍制空権トライアングルゾーン
晴れているなら
灰色の軍用機の姿が見えるはずだ
昼休みの小学校のすぐ上を
途切れることなく爆音が過ぎていく
会話や笑みを封殺しながら

見上げても見上げても
姿は見えない
青空ならば戦争の道具がくっきりと見えるのだが
戦争の無意味さを人類の視野は永久に外し続ける

ナイジェリア アフガニスタン パキスタン ミャンマー
ロンドン マンチェスター ブリュッセル 
パリ バルセロナ サンクトペテルブルク…… 
世界のあらゆる場所で
命は突然断ち切られる
瞳に映った木々の緑と
さっきまで降りそそいでいたこもれび
珈琲の香り 誕生パーティの思い出
誰かと握り合った手のぬくもりが
ばらばらにされる
テロリストの欺瞞の夢のなかで
世界の欺瞞が煮詰められた毒のなかで

核実験成功を映像が伝える
独裁者とその取り巻きたちの喜悦の表情
腹立たしさよりも恥ずかしい思いで
スイッチを切った

「日米は100パーセントともにある」
アメリカは我が国を守ってくれると約束してくれました!」 *

日本では戦争は生きておらず
平和が殺されつつある

チャイムとこどもたちの声を消し
鳥がいなくなった空には
姿の見えない爆音だけが響いていく
暴力装置の舞台となった空の下に
人間たちは生きている

世界のなかで「戦争」が行われれているのか
それとも戦争のなかで「世界」は行われているのか

いま手紙を書いています
女の子をグーで殴り
仲間のコクワガタを盗り
新品のスニーカーを隠した男の子に
暴力はいけないよ
盗みはいけないよ
いじわるはだめだよ
当たり前のことを伝えようと

そのとき わたしの頭のなかに
荒野のなかで組んずほぐれつ
石斧を振り下ろす族の目が
血塗られた略奪のための棍棒
塹壕の外にころがった兵士の口が
閃光と悪しき雲の下で灰燼と化した地上が
万物の霊長たる種の歴史が
走馬灯となって流れた

手にしたボールペンとともに
わたしはぽかんとしてしまう

低くたれこめた雲のなかを
爆音が響いていく

当たり前のことを
伝えようと
もう一度 ボールペンを握る
むずかしいことはなにもない
手もとからの易しい言葉が
爆音を不安を絶望を消していく

頭のなかには
はっきりとした空が広がっている
恐怖も愚かさもない空が
これから先 まだ見えないかもしれないが
空は広がっている

 



FCLP(Field Carrier Landing Practice)
米国海軍用語で、滑走路を空母の飛行甲板に想定し離発着を繰り返す飛行訓練のことをいう。在日米軍は、二〇一七年九月一日、二日、四日の三日間に亘り、神奈川県厚木基地において原子力空母ロナルド・レーガンの艦載機を用いてFCLPを行った。訓練初日、神奈川県、厚木市座間市大和市綾瀬市横浜市等の自治体ならびに市民団体が米軍に訓練中止を要請したが強行された。

米軍制空権(=横田空域)
首都圏から関東甲信越静岡県にかけて高度三七〇〇メートルから七〇〇〇メートルの空域は、米軍の管理下にあり、日本の民間航空機は米軍の許可なく飛行できないことが日米地位協定により決められている。


二〇一八年三月九日、安倍晋三は米国大統領ドナルド・トランプ北朝鮮情勢に関する電話会談を行った。その際、安倍は「日米は100パーセントともにある」と発言した。また、二〇一七年一月三十一日参議院予算委員会において、「日本を守ることができるのはアメリカしかいない」と発言。同年衆議院解散選挙の街頭演説の際にも、安倍は「アメリカは我が国を守ってくれると約束してくれました」と意気揚々と述べた。

 

   詩集『シャドーボクシング』より